車いすを“次の時代”へ ~工場見学編~

株式会社カワムラサイクル
管理本部 事業管理部 課⾧ 岩永賢治
企業プロフィール
神戸の老舗自転車メーカーから阪神淡路大震災を機に『車いすメーカー』へ転身され、25年を迎えて今後更なる“進化”を模索されている企業です。
製造された車いすの検品の様子や在庫管理、生産ラインの設計などを見学させていただき、カワムラサイクルの“こだわり”をお伺いしました。
他人ではなく自分たちで考える
- ここは何をする場所ですか?
弊社では、中国の福建省に量産メインの自社工場があります。品質を維持しながらより効率的に生産する仕組みを「神戸」で設計しています。作業台の高さや工具・部品の置く位置に至るまで『効率化』を追求し、一本のパイプから最も効率のいい生産ラインを構築して行きます。設計の時点である程度「作業時間」の推測はできますが、実際の生産ラインを組んだ後にストップウォッチ片手に実証を行います。実際に組立作業を行うと、作業者の力量の差や部位の構造特性などで工程にムラが生じ、想定した作業時間をオーバーすることも多々あります。そのため、生産ラインの近くには「デジカメ」を設置して作業の様子を録画し、作業時間がオーバーした“原因・理由”を検証したり、更なる“改善”のヒントを探ります。
- 製造ラインも日本で考えていらっしゃるんですね。
中国の工場へ持ち込む前に、「神戸」で何度もシミュレーションを繰り返します。今は、新しく発売される“新製品”の作業台を実際にサンプルで作りながら、最も効率的な生産ラインの仕組みを一生懸命に考えているところです。
新製品以外にも、仕様変更や現場からの改善要請を受けて、生産ラインの見直しや特殊装置の開発を行うことがあります。一例を挙げますと、『車いす』のような大きくて重たいものを段ボール箱に入れる作業は重労働となるため、その負担を軽減する装置を開発しています。
検品について 安全・安心を届けるために……
- 製造から流通まではどのような流れになっていますか?
カワムラサイクルの車いす・歩行器は、中国の福建省にある自社工場をメインに、中国(広東省)・台湾の協力工場で生産をしています。毎朝、「神戸港」から輸送されてきたコンテナを国内3つの工場につけて降ろします。こちらの『本社第二工場』は、主に中国・福建省の自社工場で生産された車いすを取り扱っており、毎朝コンテナで入ってきた車いすを2・3・4階の保管ヤードに入庫させます。1階は「出荷検査場」となっており、注文にあわせて全国に出荷しています。
- (作業者さんを見て)今は何の作業をされているのですか?
オプション品の取付作業をしています。おそらく、病院からのオーダーで、点滴や栄養剤を吊るすための「ガートル金具」を取り付けています。後輪側には「酸素ボンベ架台」も付いています。
量産は中国・台湾の工場で行っていますが、お客様が求める最終的な仕様には、国内工場で取付・組み換えを行っています。近年では、エアータイヤが標準装備の車いすをオプションで“ノーパンクタイヤ”に変更して欲しいという注文も増えており、そのようなオーダーにも対応しています。
あと、『車いす』の出荷検査において、各部位の機能を満たすことは当然ですが、車いすは構造的に左右対称に部品が構成されており、左・右の感覚が一致していないと“不安”になるというのが日本人的な発想ではないかと思います。日本のお客様に『安全』だけではなく、『安心』をお届けするためにも国内工場で最終的な微調整を行う“ダブルチェック体制”を敷いています。
- 日本でもダブルチェックすることは大変だろうなと思いますし、チェックする項目がたくさんありますよね。感覚を大事にするのは熟練の技術があってこそですね。
「なぜここまでする必要があるのか」という理解がないと出来ない仕事だと思います。車いすは『工業製品』であると同時に『福祉用具』でもあるため、使う方の視点が求められます。毎日使う方からすると車いすのわずかな変化も“敏感”に感じていらっしゃいます。『車いす』は身体を預けて使う“パートナー”であり、そのパートナーが“不安”を与えるものであった場合、それを使い続けるというのは使う方に心理的な負担を掛けてしまいます。
この工場で検査する作業者もそれを常に意識しながら自分たちの技術を活かしています。ちなみに、検査にあたる作業者も毎日『車いす』に触れていますので敏感に変化を感じ取ることができ、何か異変を感じた場合にはすぐに「品質管理部」を通じて生産工場へフィードバックを行っています。
働く人も利用者も気持ちよく使えるように
- ここでは何をしているんですか?
ちょうど定盤の上で「四点接地(前輪・後輪)」の検査が終わって、最終検査の「直進走行性試験」を行っているところです。日本工業規格(JIS)で定められた傾斜角度4 度のスロープを人が乗った状態で1.8m走行させて直進のブレが基準値内に収まっているのかを検査しています。
これも『安心』をお届けするには欠かせない工程で、真っすぐ走らない車いすは”不安“を与えてしまうだけではなく、車いすを使って一生懸命に“訓練やリハビリ”に励まれている方の「自信」をも奪い兼ねません。これまで何度も申し上げてきた『車いすは“工業製品”であり“福祉用具”である』という言葉の裏には、絶対に譲れない“安全・安心”へのこだわりを自分たちのプライドとして常に持っています。
今後について
- インタビューから工場見学までさせていただき、ありがとうございました。
今回、インタビューをお受けしたのは、「兵庫・神戸の“ものづくり”をより多くのひとに知ってもらいたい」という熱い思いのあるご提案があったからです。弊社が「KOBE JAPAN」をブランドネームとして掲げさせていただく以上、兵庫・神戸の皆様にもこんな“車いす”をつくっているメーカーがあるんだと知っていただきたいと思いました。
普段、街中で『車いす』をお見掛けされることがあると思いますが、実はたくさんの種類や機能があり、見えないところに“こだわり”がたくさん詰まっていることを知っていただくだけでも幸いです。
今、『メガネ』と聞いて“ネガティブ”なイメージを持たれる方は少ないと思います。それは、機能性の進化だけではなく、ファッション性の向上と共に選べる豊かさを提供し、あらゆる生活シーンに溶け込んだ結果だと考えます。『車いす』は残念ながら未だそこまでの進化を果たせていません。だからこそ、そこに挑戦する“価値”が十分にあると考えています。
「KOBE JAPAN」のブランド化は、車いすの“安全・安心”の先にある“ポジティブ”なイメージへの挑戦でもあります。新たなステージへ動きはじめたばかりではありますが、人の“こころ”に寄り添う気持ちが「兵庫・神戸」の最大の魅力だと思いますので、この『兵庫・神戸ブランド』として世界に認められる“車いすメーカー”を目指して参ります。
企業情報
会社名 | 株式会社カワムラサイクル |
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住所 | 兵庫県神戸市西区上新地3丁目9-1 |
設立 | 平成7年8月31日 |
事業内容 | 1.車いす、医療用機器及び同付属品の製造・販売 2.介護用品及び介護機器の製造・販売 3.健康器具の製造・販売 |
URL | https://www.kawamura-cycle.co.jp/ |
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