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現場とお客様の声に耳を傾け、車いすを“次の時代”へ

株式会社カワムラサイクル
管理本部 事業管理部 課⾧ 岩永賢治

企業プロフィール
1915年(大正4年)創業の“老舗自転車メーカー”から1995年の阪神淡路大震災を機に“車いすメーカー”へと転身。
当時は最後発メーカーとして、これまでの常識に囚われない革新的な発想で“車いす業界”に大きな影響を与えました。近年は、病院や介護施設向けの車いすだけではなく、在宅向けの“軽量・ コンパクト”なタイプにも力を入れており、より顧客目線でデザイン性にも配慮した企画・開発を行っています。
また、車いすメーカーとして25年を迎え、さらなる進化を目指して「KOBE JAPAN」をブランドネームとし、これまでの業界常識にはなかった“ブランディング”という新たな発想を取り入れています。『車いす』のもつ“特別な乗りもの”というイメージを変えることで、メガネのようにより身近なモノとして車いすを感じてもらい、使うことをためらうことがないよう『あらゆる生活シーン』に溶け込む車いすの実現を目指して挑戦されている企業です。

より安心できる車いすを目指して ―工業製品としての安全性と福祉性の両立

  • - 貴社のHPを拝見して、我々のイメージしている車いすよりも機能性やデザイン性が高い商品がたくさん見受けられました。全て自社でデザイン、設計されるんでしょうか。

    設計・企画など開発にかかわる業務はすべて自社で行っています。

  • - 企画・デザインにあたって大事なことや苦労することはありますか。

    車いすというのは、「工業製品」と「福祉用具」の2つの側面があります。強度・耐久性に関する安全性はもちろんのこと、使用時における安全性への配慮も求められます。
    そのため、”安全・安心“というキーワードは絶対に外してはならず、自社でも試験ができるように日本工業規格(JIS)に基づいた試験設備があります。ただ、それだけでは不十分であると考えており、当社の車いすをご利用される方は高齢者がメインとなりますので、「福祉用具」という視点で見たときに出っ張りや角張ったエッジ等があると皮膚の弱い方は怪我をする恐れがあります。また、隙間に指を挟んで骨折という可能性もありますので、そういったリスクを検証しながら設計・開発を進めています。
    一見すると『車いす』はどれも同じに見えてしまいますが、実は”多機能化“がどんどん進んでいます。それは、医療・介護現場において少しでも介助の負担を軽減するための機能であったり、車いすに乗られる方の身体寸法・身体状況に少しでもフィッティング(適合)した車いすを提供するためです。

  • - 具体的にどのような機能がありますか?

    車いすを選ぶポイントは4つあります。

    ① 車 (駆動・移動)
    ② いす(姿勢・座り心地)
    ③ 移乗(乗り降り)
    ④ 環境(使用する場所・介助者の身体能力)

    4つの要素をすべて満たすことは難しいですが、優先順位をつけて選ぶと求める“車いす”に出合うことができると思います。その中で、特徴的な車いすとして『こまわりくん』という六輪車いすがあります。その名のとおり「環境」という要素から狭い室内においても小回りが利くように一般的な車いすよりも『後輪』の車軸位置を前方に移動させ、回転半径を小さくする設計がなされています。そして、後方転倒しないように「補助輪キャスタ」が付いた安全な仕様となっています。
    近年、「在宅介護」の割合が増え、“軽量・コンパクト”のニーズが高まっています。現代の車いすのフレーム素材はアルミが主流となり、スチール製(鉄)に比べると3割ほど軽量化にはなっていますが、老老介護や女性介助者の割合が高いため、さらに“軽量化”を求める声が多く、車体重量10㎏以下の軽量車いすが人気となっています。また、室内利用において狭い居室や廊下での取り回しを考慮して車体の全幅を従来よりも5cm以上コンパクトにしたモデルも人気があります。
    「介護保険制度」においては、要介護度を1~5の5段階に分類されており、車いすを利用される方は要介護2で足腰が弱まわって“移動”を目的として使用される「軽度者」の方から寝たきりの要介護4・5の「重度者」の方まで幅広くいらっしゃいます。そして、要介護度が高くなるに連れて多機能なタイプが求められます。
    要介護3の「中度者」の方は立ち上がることが難しいレベルで、トイレに行くにもベッドに乗り移るにも介助者の支えが必要となります。利用者を抱え上げると腰への負担が大きくなり、腰痛に悩まされるヘルパーさんも多くいらっしゃいます。そこで、移乗の妨げになる『肘掛け(アームサポート)』に跳ね上がる機能を付けることで利用者を抱え上げる必要が無くなり、『脚部(フットレッグ)』には開閉式の機能を付けてベッドサイドや便器にアプローチしやすいようにしました。そのような『肘掛け跳ね上げ式+脚部スイング式』を他社に先駆けて量産化し、今では当たり前の機能として介護現場で認知されるようになりました。
    要介護4・5の「重度者」の方になりますと、座る姿勢が安定しない方が多いため、背もたれのリクライニングだけではお尻の位置が前にズレて姿勢を崩しやすくなります。その問題を解決するために『背もたれと一緒にお尻だけが下がる機構』を開発し、お尻の前ズレが抑えられて安定した座る姿勢が可能となった“ぴったりフィット”という当社独自の新しいリクライニング車いすもあります。

本当の需要を見抜く ユーザーの声の吸い上げ

  • - デザインをする中でも福祉用具としての側面、「利用者の目線」が大事になるとお伺いしましたが、デザイナーや設計者の方が商品に反映させるために事前に勉強や取り組みをしているんですか?

    まず新入社員の場合は、5 つのテーマで研修を行っています。

    ① 会社を知る
    ② 業界・流通・制度を知る
    ③ 車いすを知る
    ④ ものづくりを知る
    ⑤ 実務を知る

    『① 会社を知る』では、“カワムラサイクルのあゆみ”として過去の歴史から現在に至るまでの一連の流れを学んでもらい、今後どのようなメーカーを目指していくのかを学び、ベクトルを合わせます。その中で、過去にどんな挑戦をしてどんな失敗をしてきたのかも隠さずに教えています。
    『② 業界・流通・制度を知る』では、事業環境の全体を知ることで“なぜこのような車いすが求められているのか”等について学びます。そして、当社の営業マンと同行して「福祉用具販売・レンタル事業者」や「病院・介護施設」に訪問してお客様の現状を把握し、“なぜ?”の疑問を一つ一つクリアできるようにしています。あと、市場調査として「ホームセンター」で売られている安価な車いすも視察に行ったりもします。
    『③ 車いす知る』では、機能や種類を学ぶだけではなく、実際に「神戸」の市街地で『車いす』をぺア(乗る・押す)で交代しながらスロープや段差乗り越えの大変さを体感し、商業施設ではバリアフリー化されている工夫などを学んで、街行く“ひと”の目線・心遣いも感じながら使用体験をしてもらいます。
    『④ ものづくりを知る』では、設計・品管・製造・検査・アフターの各部署を取材しに行き、それを模造紙にまとめ、さらに深堀取材して“カワムラサイクルのこだわり”である“安全・安心”のキーワードを理解・納得してもらいます。
    『⑤ 実務を知る』では、会社に掛かってきた電話を実際に出てもらい、どのような問い合わせが多いのかを緊張しながらも体験してもらいます。電話の内容は、車いすの商品的なところだけではなく、商売における「在庫・納期」等というお客様が求めるスピード感も同時に学んでもらい、商品を供給する責任を実感してもらいます。
    以前は、一台一台異なるオーダーメイドの車いすを通じてエンドユーザ―様の求めるニーズを感じながら車いすを学んでいた時代もありましたが、時代が要求する車いすの多様化と高機能化が進むにあたり、近年では社内外の「研修」を強化しながら、より実践的な「業務」をこなすことで、さらなる進化を生み出す方向にシフトしています。
    しかし、エンドユーザー様との距離感があると、『誰のため……何のため……』という“本質”から外れたアイデア製品を生み出し兼ねないので、病院・介護施設でのモニタリングの在り方を見直したり、日々寄せられるエンドユーザ―様・代理店様からの要望に耳を傾けながら進化を図っています。あと、当社で把握しきれないニーズ・ノウハウは、毎日エンドユーザ―様と向き合って仕事をされているOEM先との連携によって現場で求められているものを掴み・吸収し、当社のオリジナル製品にも活かすようにしています。

多くの人が長く使える車いすに

  • - お話の中で、現在「介護保険制度」の在宅サービスにおいて、車いすは“レンタル”が主流とお伺いしましたが、そのレンタルで求められることと個人で所有する車いすとの違いはどんなものがありますか?

    介護保険制度における『福祉用具レンタルサービス』では、衛生管理を図る上で“洗浄・消毒”が義務化されています。個人ユーザー様の場合は、“乗り心地・使い勝手・見た目のデザイン”等に配慮が必要となりますが、レンタルではそのニーズにプラスする形で、“耐久性・作業性・メンテナンス性”等が求められます。サービスを提供する「福祉用具レンタル事業者」様においても“安全・安心な福祉用具を提供する”という使命がありますので、そのプロ意識の高さが我々メーカーにも求めれています。
    一例を挙げますと、車いすのエンドキャップに「水抜き用の穴」が付いています。これは、エンドユーザ―様には関係がないかもしれませんが、我々のもう一つのお客様である「福祉用具レンタル事業者」様のニーズを反映した仕様になっています。

  • - 他に工夫されている点はありますか。

    触ってもらうと分かりますが、基本操作で使用者の触れる部分においては怪我しないようにボルト・ナットの取り付ける位置を工夫したり、なるべく“出っ張り”や“角張った”『部品』を使用しない設計を心掛けています。隙間においても思わぬ怪我を防止するために開けるなら開ける・無くすなら無くすというメリハリのある設計・仕様になっています。
    あと、福祉用具においては、“ヒヤリハット”という利用者の問題で起こる事故も多いため、操作レバーに色を付けたり、操作レバーの形状を工夫する等して直感的に認識できるようにしています。特に、車いすの場合は“移乗の際”の転倒事故が最も多く報告されており、ストッパーの役目となる『駐車ブレーキ』の操作性を重要視しています。
    また、近年では“ノーパンクタイヤ”という空気の補充が不要なタイプが普及しています。パンクの心配もなく、『在宅』で“老老介護”の方や『病院・施設』で“複数台”運用・管理されているケース等では定期的に空気補充するのが大きな負担となるので、“ノーパンクタイヤ”のニーズが高くなっています。

  • - ナットとかボルトとか一つ一つ見てもこだわっていらっしゃるのが分かります。他にこだわっている点はありますか?

    これまで車いすの「仕様(機能・特徴)」について述べて参りましたが、車いすにおいてもう一つ大事なポイントが「寸法」です。日本人の身⾧・体系が変化してきており、今でも平均的な座る幅(座幅)は40cmが基本ですが、以前は特注・オーダーメイド扱いであったワイドの座幅45cmが既製のラインナップに追加されるようになりました。あと、介助者の視点では、車いすの押手が以前は86cmが標準の高さではありましたが、やや屈む姿勢で車いすを押すことなり、腰への負担に配慮して今では89cm以上の高めに設計しているタイプも増えてきました。

  • - 車いすというとビニールっぽい座面のイメージだったんですけど、メッシュ素材は通気性もよさそうですね。

    車いすのエンドユーザ―様は、“個人・病院・介護施設・商業施設・テーマパーク……”など様々です。個人のユーザー様でしたら、肌触りと通気性のある“メッシュ素材”も人気がありますが、公共施設などの不特定多数の方が利用されるケースにおいては、汚れに強くて拭き取りがしやすい“ビニールレザー素材”のシートが人気です。一方で、青系のビニールレザーは病院のイメージが強く、在宅では敬遠される個人ユーザー様もいらっしゃいます。あとは材質的に汚れには強い反面、通気性が悪くて蒸れやすいという欠点もあるからです。
    一般的には、ポリエステルの“チェック柄”が定番として⾧く親しまれてきましたが、近年では“無地系”やブラック・グレーなどの“モノトーン系”も人気があります。

  • - これまでお伺いしてきた車いすの特徴をご存じない方が多いと思いますが……

    はい、その通りです。近年では、小学校の授業で『車いす』に触れる機会もあるようですが、一般的には、見かける機会はあっても触れる機会が少ないのが現状だと思います。
    そのため、『車いす』が“特別な乗りもの”として扱われてしまい、街中で見かけても近寄り難い印象を受けてしまうのではないかと思います。それは、車いすに乗って街中に出てみると肌感覚で伝わってきます。
    これまでは、定められた「規格」や「制度」の中でしか“進化”を図れておらず、『車いす』が“特別な乗りもの”というイメージを超えることが出来ていなかったと思います。
    もしかすると、本来『車いすを創る』私たちが日々の業務ワークの中で“既成概念”や“固定観念”に囚われてしまい、私たちの中にある何かが『車いす』の進化を妨げていたのかもしれません。
    そんなジレンマに打ち勝つには、社員皆が『車いす』のある暮らしを想像しながら、社会に興味やインパクトを与え、“特別な乗りもの”から“クルマイス”として街中に溶け込む普遍的なものに『車いすを進化させること』が私たちの使命であると考えます。

神戸に対する思い

  • - ホームページで「KOBE JAPAN」とかかげられていますが、兵庫県、神戸に対する思いとは?

    「神戸」は“カワムラサイクルのあゆみ“そのものです。1915年(大正4年)この「神戸」の地で自転車メーカーとして創業し、1995年(平成7年)1月17日の阪神淡路大震災で本社・工場ともに大打撃を受け、その後「車いすメーカー」として再出発をしました。
    創業者の村山民生の話によると、震災後で動揺している社員に寄り添いながらも今後の事業展開について説明をしたところ、『車いす』という無知で未知な製品に対する“不安と戸惑い”を抱える社員が多くいたとの事でした。しかし、何度も丁寧に説得を繰り返したそうです。
    そして、残った社員40名と共にプレハブの建物から再スタートを果たし、お金も設備も無い不便な状況の中で“自分たちで出来ることは自分たちで何でもやる”という精神のもと社員が一丸となり、自転車で培った技術を日本の抱える「超高齢社会」の問題に活かせる『車いす』で社会に貢献して行くことを誓いました。その精神が、これまで25年にわたり私たちの“努力”を支えてきました。

  • - 最後に今後の抱負をお聞かせください。

    「KOBE JAPAN」は、当社のブランドネームとして掲げています。
    その名に恥じないメーカーを目指すという意味もありますが、あれから25年を迎えて「神戸」で当社を支えていただいた全ての皆様への“感謝”の思いと今後更なる“飛躍”を誓って込めたメッセージとなっています。
    創業時の思いを大切にし、次なるステージに向けて「何をするべきか……」新たな挑戦が始まったばかりです。

企業情報

会社名 株式会社カワムラサイクル
住所 兵庫県神戸市西区上新地3丁目9-1
設立 平成7年8月31日
事業内容 1.車いす、医療用機器及び同付属品の製造・販売
2.介護用品及び介護機器の製造・販売
3.健康器具の製造・販売
URL https://www.kawamura-cycle.co.jp/

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